障害を持つ人々が社会で活躍するために、企業や公的機関には障害者を雇用する義務があります。
そのため、各企業は障害者雇用枠を設け、障害に対する合理的配慮を行うことを前提に人材を募集しています。
この制度は、障害者の社会参加を促進するための大きな一歩として位置づけられていますが、その実際のメリットやデメリットをご存じでしょうか?
本記事では、障害者雇用枠の具体的なメリットとデメリット、そしてその背景にある理由や事情について詳しく解説します。
目次
障害者雇用とは?
障害を持つ人々が社会人として平等な機会を持って働くことを支援するための制度や取り組みが、障害者雇用です。
日本では、障害者雇用促進法に基づき、従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を法定雇用率以上にする義務があります。
民間企業の法定雇用率は2.3%(2024年1月現在)で、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならないと定められています。
障害者雇用枠の対象者
障害者雇用枠の対象となる障害にはいくつかの種類があります。
ここでは、その対象となる3種類の障害種別について解説します。
身体障害者
身体障害者とは、身体的な障害を持つ人々のことを指します。
これには、「目が見えない」「耳が聞こえない」「歩行が困難」といった視覚、聴覚、運動機能などの障害が含まれます。
障害者雇用制度の上では、身体障害者手帳の所有者が実雇用率の算定対象となっています。
知的障害者
知的障害者とは、知的機能に障害を持つ人々のことを指します。
「簡単な計算」や「日常の生活動作」が難しいなど、日常生活を送るうえでのスキルの習得が困難な人々が該当します。
障害者雇用制度の上では、療育手帳の所有者が実雇用率の算定対象となっています。
精神障害者
精神障害者は、メンタルヘルスに問題を持つ人々のことを指します。
「うつ病」「統合失調症」「双極性障害」などの精神的な疾患や「発達障害」などの特性を持っている人が該当します。
日常生活において気分の波が激しい、疲れを感じやすいといった症状が該当します。
障害者雇用制度の上では、精神障害者保健福祉手帳の所有者が実雇用率の算定対象となっています。
障害者雇用と一般雇用の違い
従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を法定雇用率以上にする義務があり、そのために設けられた雇用枠を、「障害者雇用枠」と呼びます。
民間企業の法定雇用率は2.3%であり、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用するよう法令で定められています。
障害者雇用枠と一般雇用枠の比較
障害者雇用において、企業は障害者に働く機会を提供し、安心・安定して働き続けるために「障害者雇用枠」を設けています。
障害者雇用枠で採用された社員は、障害を持ちながらも安心して業務に従事できるよう、職場での社会的障壁を取り除くための様々な配慮を受けられる場合があります。
サポートを受けられるぶん、障害者雇用で就職すると、一般雇用に比べて職場定着率が高い、という傾向があります。
障害者雇用の法定雇用率は年々高まっており、障害者雇用枠の数じたいが増加しているので、就職のチャンスはさらに広がってきています。
障害者にとってはメリットの多い雇用形態ですが、反面デメリットも存在します。
以下は、障害者雇用と一般雇用のメリット・デメリットの比較です。
項目 | 障害者雇用 | 一般雇用 |
障害に対する配慮 | ◎ | △ |
定着率 | 〇 | △ |
職種の幅 | △ | ◎ |
就労時間の幅広さ | △ | 〇 |
障害者雇用枠のメリット
障害者雇用枠は、障害者だけでなく、企業や社会全体にとっても大きなメリットをもたらします。障害者が働くことの意義や重要性を理解し、適切なサポートや配慮を行うことで、より良い職場環境を築くことができるでしょう。ここでは、障害者雇用枠のメリットを解説します。
合理的配慮を求めることが可能
障害者雇用枠で働くの最大のメリットは、企業が障害に対して配慮をしてくれるという点です。
配慮事項の内容はケースバイケースですが、例として下記のようなサポートが考えられます。
・身体障害
車いすを利用している場合:職場に車いすスペースやトイレを設置
視覚障害の場合:拡大鏡や点字ディスプレイの貸与、パソコンの音声読み上げソフトの導入
聴覚障害の場合:筆談や手話通訳者の配置、音声を文字に変換する機器の導入
肢体不自由の場合:介助者の配置、業務内容の見直し
・精神障害
うつ病の場合:時短勤務や休職の取得、上司や同僚とのコミュニケーションの工夫
統合失調症の場合:通院の許可、業務内容の見直し
発達障害の場合:指示の明確化、業務の分担や調整
・知的障害
読み書きや計算が困難な場合:資料の作成や業務の指示への配慮、サポートスタッフの配置
コミュニケーションが困難な場合:指示の明確化、ゆっくりと話す
(参考)内閣府ウェブサイト https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/index_general.html
障害の程度や困りごとは人それぞれのため、合理的な配慮の内容はさまざまです。
障害者枠での雇用を希望する場合は、面接の段階で隠さずに困りごとを伝えておくとよいでしょう。
周囲からの理解が得られやすい
障害者雇用の推進は、社会全体での取り組みとして認識されています。
そのため、障害者が働くことの意義や重要性についての理解が、職場内外で広がっています。
これにより、障害者雇用枠で働く際に、周囲からのサポートや理解が得られやすくなっています。
ジョブコーチのサポートが受けられる
障害者が職場での業務を遂行する際には、企業の同意があれば、ジョブコーチという専門家のサポートを受けられます。
ジョブコーチは、障害者の職業的な能力や適性を引き出すためのサポートを行うとともに、
受け入れ側の企業に対しても現場職員の障害に対する理解を深める等のサポートを行い、様々な方が働きやすい職場環境を整えていきます。
これにより、障害のある方でも安心して職場での業務に取り組むことができます。
また、障害者雇用枠がある企業では「在籍型ジョブコーチ」の資格を持つサポートスタッフが配置されている場合もあります。
福祉施設での工賃に比べ給与が高い傾向にある
障害者が就労継続支援B型事業所などの福祉施設で作業を行う場合、その対価として「工賃」という形で報酬が支払われます。
工賃とは、雇用契約をせずに活動する福祉施設の利用者さんが、作業の対価として受け取るものです。
一般的に、福祉施設で受け取れる工賃は企業での給与に比べて安価で、それだけでは生活費を賄い切れない可能性があります。
一般の企業で働くことには経済的なメリットがあり、障害を持っている方が自立するための大きな後押しとなります。
障害者雇用枠のデメリット
障害を持った当事者や企業にとって大きなメリットをもたらすことが期待できる障害者雇用枠ですが、デメリットも存在します。
求人数が少なく職種が限られている
障害者雇用枠の求人数は一般枠に比べて少なく、特定の職種や業種に限られることが多いです。
これは、障害を持っている方の能力や適性を考慮した結果、特定の職種が適していると判断されることが多いためです。
これにより、自分が希望する職種や業種に就くことが難しくなることもあります。
たとえば、デザイナーなどの芸術関係の仕事や、ドライバーなど体力が求められる仕事についての障害者雇用枠の求人は少なく、それらの仕事に就きたい場合、障害者雇用枠にこだわっていると選択肢が非常に狭くなってしまうことがあります。
一般枠より給料が低い場合がある
障害者雇用枠での採用の場合、勤務時間が短く設定され、一般枠と比べて給料が低くなっていることがあります。
しかし、障害の程度や種類によっては、障害があっても一般の従業員と同じスケジュールで働くことが可能です。
企業ごとに違いがありますので、応募前や面接前に、求人票で就労時間の幅や昇給について確認しておくと良いでしょう。
一般枠より就労時間の幅が限られている
障害者枠雇用の短時間労働は、最低の時間数が20時間/週となっています。
それより少ない時間数での就労を希望される場合は、一般枠での就労という形になる場合が多いです。
20時間/週の場合、求人によって、4時間×5日、5時間×4日、8時間×3日など様々な形があります。
障害者雇用枠で働く条件
障害者雇用枠で働くための基本的な条件は、障害者手帳を持っていることです。
日本において、障害者手帳は身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類があり、これらの手帳を持つことで、障害者雇用の様々なサポートや制度を受けることができます。
企業や公的機関は一定の割合で障害者の雇用枠を設けることが義務付けられていますが、この枠での雇用を希望する場合、上記の手帳のいずれかを持っていなければなりません。
障害者雇用枠で就職する際の注意点
障害者雇用枠での就職を考えるさいには、以下の点に注意することが重要です。
- 労働条件の確認
入社前に労働条件をしっかりと確認し、自分の障害の状態や生活リズムに合った条件であるかを見極めましょう。
- 職場環境の確認
障害の種類や程度によっては、特定の環境や設備が必要となる場合があります。
事前に職場見学を行い、必要な設備が整っているかを確認しましょう。
- コミュニケーションの確保
障害者としての特別な配慮やサポートが必要な場合、それをしっかりと伝えることが大切です。
入社前や入社後のオリエンテーション時に、自分の状態や必要なサポートについて上司や同僚に伝えることで、スムーズに働きやすい職場環境を整えることができます。
配慮して欲しいことや具体的な症状について相談をおこない、周囲に理解を求めましょう。
障害者雇用枠での就職は、障害を持つ人が社会参加をする上で非常に重要なステップとなります。
入社後に認識の相違が発生しないよう、上記の点を注意深く確認し、自分にとって最適な職場を見つけることが大切です。
障害者雇用のサポートは「一般社団法人ソース」にお任せ
障害者雇用枠は、障害を持つ人々が社会に参加し、働くための重要な制度です。
この枠で働くためには障害者手帳の所持が必要で、所持していることでさまざまなサポートや制度の恩恵を受けられるようになります。
障害者雇用枠での就職を考える際には、労働条件や職場環境、コミュニケーションの確保などに注意が必要です。
とくに、自分の障害の状態や生活リズムに合った労働条件であるか、職場での必要なサポートや設備が整っているかなど、入社前にしっかりと確認することが大切です。
私たち一般社団法人ソースは、障害者雇用枠で働くさいにご本人の適性がその仕事に合致しているか、あるいは障害者雇用枠のエントリーの方法、進め方など、適宜アドバイスを行っております。
また働き始めた後でも、雇用先の企業と連携し、働きやすい職場環境を整えるために必要な支援(定着支援)を実施します。
障害があって就労が難しい、働き先が見つからないといったお悩みをお持ちの方でも、就労を諦める必要はありません。
大阪府堺市堺区にある障害者就労移行支援事業所「ソース堺東・三国ヶ丘」へぜひご相談ください
【監修】佐古順子
サービス管理責任者
職場適応援助者(訪問型ジョブコーチ)
ビジネス実務マナー3級
メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種
ソース堺東
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